今日の出来事

救急から尿のグラム染色を見てほしいと依頼がありました。グラム染色のありがたみが発揮される場面であり、細菌検査の存在意義をかけた名シーンです。なんせこれだけでグラム陽性か陰性かの区別がつき、抗菌剤選択の参考にもなるんですから。外注ではちょっと実現出来ない迅速さと便利さですよー。

と云いたいのですがねえ。尿の概観は完全に膿尿でした。グラム染色像は予想通り、視野いっぱいにもっさり白血球が見えます。で、そこに見えるのはグラム陰性の桿菌。見た目は大腸菌のように見えましたが、ところどころに莢膜らしきもの(あくまでらしきもの)が見えるため、はっきりと大腸菌だと云い切れない感じでした。おおむね大腸菌だろうとわかれば、あとは狭域の抗菌薬で十分治療出来ます。膿尿でしたから、おそらく腎盂腎炎を起こしているでしょう。女性でしたので、膀胱炎であれば9割方大腸菌が原因菌です。ですが、グラム染色の「見え方」があまり当てにならないのも事実。発熱しているかどうか、尿路系に閉塞があるかどうかが問題でした。閉塞があれば、原因菌のリストがいっきに伸びます。

で、いちおう報告すると同時に主治医に聞いてみることに。
「白血球がもっさり見えるよ。大腸菌に見えるけど、尿路に閉塞はありますか?」
「とりあえず培養しておいてください」
「いやだから、尿路に……」
「培養しておいてください」
(ブチっ)電話切った音と頭の線がキレた音

いやね、いいんですよ?こっちは検査するのが仕事ですしね。たまーにすっごい勘違いしているやつがいるんですけどね、グラム染色の見え方って、意外に当てにならないんです。グラム染色は非常に強力で有益な検査法ではありますが、あくまで臨床診断の補助に過ぎない。患者が第一なんです。こっちからは患者が見えないので、こっちとしては聞きたいんですよ、患者の状態。発熱とか。尿路の器質的な障害がないかとか!なければ大腸菌でほぼ決まり、あるんだったらP.aeruginosaを含めた非発酵菌までカバーしないといけないでしょうが。

発熱があるなら、血液培養を勧めるつもりでしたが、結局電話を切ってしまったので、それも伝えていません。っていうか、こいつはもう知らん。使ってる薬もだいたい原因菌をカバー出来るものだし、大丈夫だろうと思います(でなきゃ、知らんなんて云えませんが)。CMZなんですが、CMZ使うならCTMを使ってほしいところです。なぜCMZなんだ。下痢しても知らんぞ。

グラム染色

これがその膿尿のグラム染色画像です。ばっちり貪食されていますが、これだけで菌名が推定出来るでしょうか。患者の基礎疾患は一切不明です(笑)。検査データから、かろうじてDM持ちかな、くらいは想像出来ましたが。

答えは脚注参照*1。ちょっと典型的な形はしていないと思いましたので、載せてみました。この事例ではCMZからIPM/CSに薬が変更されています。たぶん翌日CRPが上昇したのにビビったんだと思いますが、意外にCRPは病態を反映しません。たぶん翌週には解熱しているでしょう。

ちなみに、1日経過してようやく血液培養が提出されました。薬入れた後に採ってもおせえっつーの。

*1:大腸菌。コロニーも典型的なものではなく、ST耐性、LVFX耐性菌でした